―Please Keep Still and Embrace―


理由なんて教えてあげない。。。


吐息の一欠片さえも漏らさないくらいにくちづけ続け、
二人の間に隙間が無いくらいに抱き合って。
監視カメラの無いシャワールームなら、職場だという
背徳感はあっても、羞恥心は抱かなくて済む。
「今日は大胆だな」
降り注ぐ飛沫の中で唇を重ねる角度を変える瞬間
に、嬉しそうに笑った青い瞳(め)が、また閉じる。
僕より少しだけ背が高い笑太君の頭を抱え込むよう
に両腕で抱くと、ほんの少し爪先立ちになる。
軽くしならせた僕の背中の上を大きな手のひらが
滑って、お尻を掴むようにして引き寄せる。
「。。。ふ。。。んっ。。。んっ。。。」
猛った欲望が擦れあい、蕩けあって、自分のものか
笑太君のものか分からなくなっている。
「清。。。」
「しっ」
左の人差し指を開きかけた唇に押し付け閉じさせて、
戸惑っている口の横のホクロを、ちゅっ、と、吸う。
「いつもと違わね?どうした?」
僕の唇を追ってきた笑太君の唇に捕まってから、顔を
離して微笑みながら返事をする。
「う。。。んと、発情期?春だから」
首筋に甘く咬みつかれただけで、達しそうになる。
だから発情しているのは間違いない。
「ふぅん。春だから?」
耳朶に息がかかる程顔を近づけて、笑太君が口の端
で笑った。
「野良猫?」
笑太君は猫を撫でるみたいに頭を撫で回して、湿って
指に絡みついた僕の髪の匂いを嗅いだ。
「一応飼い猫。。。だと思うんだけど」
シャワーと汗とで濡れた肩で、壁に押し付けられた。
「違うかな?半野良?気が向いた時だけうちに帰って
くるから」
「。。。俺のことかよ」
腿の付け根の内側をするっと撫で下ろされて、咽喉を
反らせて息だけで喘ぐ。
「ああっ!」
耐え切れずに零してしまっている僕の雫を拭い取った
指を、身体の中に受け入れる。
「あんっ。。。あっ。。。あっ。。。あ。。。っ」
増やされてゆく指に掻き混ぜられ、わざと唇以外の所
を狙ってくる口元に翻弄され、甘い叫び声を上げる。
「声大きい。外に聞こえんぞ」
声を潜めて、笑太君が鋭く云う。
「いいよ。誰も入ってこれないでしょ?」
比較的早い時間に任務が終わったから、ここ、処刑
隊員専用のシャワールームに来る間にも誰にも会わな
かった。
「う。。。まぁ。そうだけど」
困っているのか嬉しいのか、微妙な表情で僕のことを
見て言葉を濁す。
「笑太君、顔!ニヤケ過ぎ」
「こんな風に誘われるのもいいな、ってさ」

ね、したい。

ストレートにそう云って、急いで帰ろうとしていた笑太君
を引き止めたは僕だ。
こんな風に誘うのは初めてだったから、どんな表情をして
いればいいのか分からずに曖昧に微笑んでみる。
「焦らさないでよ」
身体を擦りつけて、ねだる。
「笑太君が、欲しい」
片方の膝の裏を握られて、高く持ち上げられる。
「やぁっ。。。あ。。。」
笑太君の、熱く硬く反り返った昂ぶりの先が、指を抜か
れたばかりの僕の後孔にそっと触れる。
「俺に掴まって」
自分の肩に僕がしっかり掴まったのを確認すると、
腰を押し付けるようにして笑太君が入ってきた。
「ああっ」
衝き上げられ、揺さぶられて、身体の中心から熱い
ものが湧き上がってくる。
「あ。。。あ。。。あぁ。。。はぁん。。。あ。。。あ。。。」
繋がっている部分だけ鋭敏になって、欲望だけが
剥き出しにされる。
「う。。。もっと。。。」
耳元で聴こえる優しい吐息に煽られるように、声が
抑えきれなくなる。
「笑太君、もっと。。。っ!」
それに応えるように激しく中を穿たれて、笑太君の
筋肉質な身体にしがみつく。
「あ。。。だめ。。。っ」
内臓まで抉るように深々と突き立てられながら前を
手で嬲られて、切なく悶える。
「誘っといて先にイクなよ」
「ごめ。。。でも。。。我慢出来な。。。っ」
云い掛けた途中で唇を奪われ、差し込まれてきた舌
に添わせた舌先を、絡め取られる。
「立ってられる?」
崩れそうになった腰を支え上げられて、床についている
片足に力を入れ直した。
「バカ。それヤバい。締まる」
もう一度、今度は意識して締め付ける。
「んー。。。っ」
快感を噛み締めるように、低く唸る声。
壁や床に当たる水音よりも小さい筈のその声がクリアに
聴こえるのは、笑太君のことが好きだから、だね。
「笑太君が。。。」
もう一度。ぎゅう、と、力を入れる。
「僕の中に居る」
反対側の足も持ち上げられそうになり、バランスを崩し
そうになった。
「ちゃんと掴まってろ」
「や、な。。。っ?!僕、そんなに軽くないよ!」
抵抗する僕にニヤリと笑って、軽々と両足を持ち上げる。
「ひっ。。。ん!」
自分の重みで、更に深く繋がる。
壁に背中を預け体重を逃がしているとは云え、角度が
変わってさっきより奥を先が刺激する。。
「これで全部だ。俺の、覚えとけよ」
「も、覚えちゃってる。。。よ」
重ねた唇の間から、お互いの喘ぐ声が途切れ途切れ
に漏れる。
「笑太くんっ、中に全部ちょうだい」
「ん。。。っ」
最奥に熱が放たれて。。。
震えながら極みに達して、目の前が真っ白になった。
気が付いたのはゆっくりと床に身体が下ろされた時で、
少しの間意識を失ったみたいになっていたようだ
「清寿」
壁に寄り掛けた僕の身体をシャワーで洗ってくれながら、
笑太君が笑ってた。
「いつもより興奮したから、ちょっと激しくしちゃったな」
お詫びの代わりか、唇に、いつもより優しいくちづけを
くれた。
「背中に爪立てちゃった。。。」
淡い血の色に染まった爪先を、顔の前に掲げて見せる。
「だからお湯が沁みるのか」
自分もシャワーを浴びながら、笑太君は顔を顰めて軽く
片目を瞑った。
「僕のだって、マーキング」
欲望の残滓を洗い流してしまっても、傷なら痛みと共に
残る。
「バーカ。お前だけのもんだよ」
その傷が疼く度に僕のことを思い出して。
そういうのには鈍いから気付いてないと思うけど、今日は
わざと印を残したんだよ。
「自分でやる。もうだいじょぶ」
まだ力が入らなくて頼りない両手で、笑太君が持って
いたシャワーヘッドを奪い取る。
「いいよ。まだ立てねぇだろ?」
しゃがんで覗きこんでいた肩に腕を掛けて、そこを支点
にしてゆっくり立ち上がる。
「立てた」
よろけるように胸元に縋り、頭を抱き締めて貰う。
「笑太君、早く帰らなきゃ。タマちゃんに怒られるよ」
胸に手を当てて押し返し、体勢を立て直す。
「。。。ああ。そうだったな」
笑太君の表情が曇る。
朝から蓮井警視にメール攻撃をされていた笑太君は、
昼過ぎになってやっと開放されてから、今日は早く帰って
来いと云われた、と僕に告げた。
なんでこんなにしつこく云ってくるんだ?と、笑太君は
面倒臭そうに云ってたけど、僕はすぐに分かった。
「今日はおかしな事が多いな。タマといい、お前といい」
「僕?」
きょとんと見詰めた僕に、柔らかい笑みをくれた。
「なんか、らしくなかった」


その理由は。。。教えてあげない。
どうせ家に帰れば分かることだから。


本当に先に帰るぞ?と心配そうに訊く笑太君に今日
一番の微笑みを浮かべて頷く。
ドアが閉まって他人(ひと)の気配が消えてから、小さく
呟いてみる。
「お誕生日おめでとう。蓮井警視」
笑太君が忘れていて僕が覚えてた。。。なんて、ね。
複雑で説明がつかない、この感情。
素肌に残った余韻を確かめるように、自分を強く抱き
締めた。


―The end―






P.S.
何の前触れも無く
唐突に思い出した
タマの誕生日。。
本人出てきてないし、
こんな話で。。
ごめん、タマちゃん。
09/03/25Wed,


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