―Fragile Emotion―


――― 自分の中にこんなに激しい欲望があるとは思っていなかった。。。


この都市(まち)は雨の日が多い。
今日も1日、激しい雨が降り続いていた。
「羽沙希君は風邪ひかないね」
ロッカールームで着替えながら、式部隊長が微笑みかけてきた。
「濡れたままでもいつも平気な顔してる」
そしていつものように、はい!とタオルを手渡してきた。
「すいません」
ふんわりと乾いたタオルからは良い香りがする。持ち主と同じ香りが。
この香がとても好きで、いつもタオルを忘れたフリをしてしまう。
「御子柴隊長は意外と風邪、ひきますよね?」
今日は友達と約束があるから!と御子柴隊長は急いでいて、濡れたまま帰ってしまった。
「笑太君は濡れても気にしない人だからね。それに、風邪ひくにはひくけどすぐ周りにうつ
しちゃって平気な顔してるから、それがちょっとシャクなんだけど」
こちらに横顔を向けたまま、式部隊長は苦笑した。
その恋人のようなことを語っているような甘い口調に、僕は何とも云えない感情を抱いた。
これ何だろう。。。不快感?もしかして嫉妬??
何故こんな負の感情が生じたのか、自分でも分からなかった。

雫が垂れる程濡れた髪を拭いているその横顔を眺めていたら、
視線に気付いてこちらを見た式部隊長と目が合った。
にこ。
「ぼーっとしてると身体が冷えちゃうよ」
慌てて髪を拭き出した僕を、穏やかな笑みが見守っていた。
長い髪はなかなか乾かないようで、途中で拭くのを諦めて後ろに垂らして身体を拭き始めた。
露わになった上半身の、しっとりと濡れた肌の上をタオルが滑るように動く。
その滑らかな動作に見惚れていたら、また視線が合った。
ふふふ。
「なんか今日羽沙希君おかしくない?どうしたの?」
目を細めて笑いながら、こちらをじっと見詰めている。
僕の心臓は激しく拍動していた。
「あれ?熱でもあるんじゃないの?」
額に伸ばされてきた手を、顔を背けてかわしてしまった。
式部隊長は一瞬戸惑ったような表情(かお)をしたが、それでも諦めずに僕の頭を両手で
押さえて固定して、自分の額をくっ付けてきた。
心臓が張り裂けそうになる。そこからこの動悸が伝わる筈も無いのに。
「顔熱いよ。風邪ひいたんじゃない?」
心配そうに覗きこんできた大きな瞳には、真っ赤な顔をしている僕が映っていた。
「大丈夫です!多分風邪じゃないですからっ」
緊張で声が裏返ってしまって、恥ずかしさのあまり視線を逸らす。
「いいから!ホラ、早く拭いて」
頭にふわっとタオルが掛けられて、ぐしゃぐしゃと髪が拭かれた。
そのタオルはそのままにして、次は上着のボタンとミニベルトに手がかかる。
そしてネクタイが外され、シャツのボタンが外された。
無抵抗な僕を扱う式部隊長は手馴れたもので、普段から手の掛かる子供を相手にしている
母親のようだった。
拭かれながら僕は、呆然と目の前の、タオルの間から見える式部隊長の胸を見ていた。
首筋に1つ、青い痣のような痕。。。薄くなってはいたが、明らかにキスマークと思われるモノが
あった。
鼓動が、更に激しくなった。


――― それは衝動、だった。


少し前屈みになって僕のことを拭いていた式部隊長の首に手を掛けて、
ぐっと自分の方へ引いた。
想像もしていなかった僕の行動に対処しきれずに言葉を発する間も無く倒れかかってきた
その顔の、その唇に自分の唇を押し当てた。
「どうしたの?羽沙希君!」
式部隊長は唇が離れた瞬間に少し頭を後ろに下げ、僕のことを見下ろしながら動揺を
隠さずに云った。
「。。。僕の事、子供扱いしないでください」
「えっ!?」
「いくら疎そうに見えても、僕ももうイイ歳の男なんです」
自分でも混乱しているのは分かっていた。
「僕だって。。。僕にだって人並みの性欲はあるんです!」
式部隊長は困ったような表情(かお)で僕を見た。
困らせたくてこんなことを云ったのではない。
ただその唇に、その身体に触れてみたくて。。。
首に掛けたままだった手に、もう一度力を入れて引き寄せる。
一緒に掴んでしまった髪を握りしめながら、夢中で唇を吸った。
固くなっていたその口元が緩んで、僕の口の中に優しく舌が差し込まれてきた。
舌と舌が絡み合い、湿った音を立てる。
これだけでもう興奮して僕の下半身は肥大してしまい、身体と身体の間で擦れる感触だけで
イッてしまいそうになっていた。
式部隊長の手がしなやかに動き、ゆるゆると僕を裸にしていった。
「羽沙希君、初めてでしょ?」
頷く。もう見栄もプライドも無い。
なのにほんの少しの羞恥心だけは残っていて、顔がまともに見られない。
ふわり、と、突然"僕"が、温かくて湿ったモノに包まれて驚いた。
式部隊長の口に含まれたのだ。
「あああっ!!」
次の瞬間、腰が砕けそうになった。
舌先が先端から付け根までなぞるように動き、濡らされてゆく。
気持ちいいを越えて、感じすぎて、目をぎゅっと瞑ったっきり開けられない。
もう言葉も出ない。何も考えられない。
ただただ堪らなく目の前に居るこの人が欲しい。。。
床の上に散らばっていた2人の制服の上に横たわり、式部隊長は充分に濡らした"僕"を
掴んで、自分の芯まで誘導した。
先端が軽く当てられる。
「挿入(い)れてみて」
その言葉が頭の中心を走りぬけ、はちきれそうになっていた"僕"を式部隊長の中に挿入して
行った。
御子柴隊長はいつもどんな風にするんだろう?
想像するだけで身体が蕩けそうになる。
自分の行っている行為に陶酔して、意識が朦朧としてきた。
。。。んっ!ふぅっ。。。
苦しそうな喘ぎ声で、正気に戻った。
「式部隊長。。。」
思わず名を呼ぶ。
式部隊長は眉間に皺を寄せたまま目を薄く開けて、はぁ。。。と大きく息を吐き出して、
絞るような声で途切れ途切れに云った。
「そこで止まると痛いから。。。もっと奥まで来て」
ぐっ!と押し込むと、中に飲み込まれるような抵抗感と奥まで達したような感触があって、
式部隊長の上半身が大きく反った。
ピンク色に染まったノド元が色っぽくて、キスマークを付けたくなる気持ちが分かった。
「羽沙希君、動いてごらん」
潤んだ瞳を片方だけ開けて、式部隊長は掠れた声で囁くように云った。
夢中で腰を動かす。
キツく締めつけられる感触に、また意識がどこかへ飛んで行きそうになる。
これが"イク"という感じなのだろう。
「僕のも触って。。。気持ち良くさせて」
甘えたような息遣いにゾクゾクきた。
言葉に操られるように2人の間で勃ち上がっていた陰茎に触れて、ぎこちない手付きで愛撫
する。
「あっ。。。っ!気持ちいいよ、羽沙希君っ。んっ。。んんっ」
その感じている表情が、声が、僕の快感に繋がって。。。
先に達してしまった僕の身体を抱きしめる腕に力が籠もり、
痙攣するように式部隊長も果てた。


シャワーを浴びて戻ってきたら、式部隊長はもう着替えを終えてイスに座ってぐったりしていた。
いたたまれない気分になって、目の前まで行き頭を下げた。
「すみません。。。」
え?という表情で僕を見てから、ふわっと綻ぶような笑顔を見せて、
「なんで謝るの?こっちが悪いのに」
と、式部隊長はいつもと同じ調子で云った。
「え?」
今度は僕が驚く番だった。
「ごめんね、君を傷付けてる事に気付いてなくて」
どこか寂しげに見える微笑みが僕の心を刺す。
「でも君は普通の恋愛をしないとダメだよ」
予想していなかった優しい言葉に、涙がぽろぽろと溢れ出した。
「はい」
この人は僕を決して責めない。
こんなにヒドい事をしても、僕を拒絶しないでいてくれる。。。
「さ、帰ろ。顔拭いて!で、ちゃんと寝てね」
「。。。はい。式部隊長も」
ふふ。
「今日はちゃんと眠れそうだから大丈夫。ありがと、羽沙希君」
鮮やかな笑顔を残して出口へ向かう後姿を、僕は必死に追いかけた。


                     ―The end―






P.S.
羽沙希君初体験の巻。
あまりいじめたくなかったので、初めての相手は清寿に。
笑太が相手だとイタい話になりそうだったから。。(苦笑
さて彼はこの先普通の恋愛が出来るのでしょうか?
一応そちらのプロット(健全な話。笑)もあります。
その第一弾“Take Me,Take You"をUPしました。
そちらもよろしくm(_ _)m


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