―Contracts or Lies. 2―


「お前達は良く似てる。だから惹かれ合うんだろうな」

呆れたように笑って、五十嵐は式部を見返した。
「ヤツはお前の為に最後まで唇を死守したよ」
その口の片側だけをクッと少し上げたいやらしい笑みに、式部は身震いした。
「。。。!だからあんなにしつこくキスを。。。?!」
それには答えず、五十嵐はねっとりした口調で言葉を続けた。
「ヤツは。。。御子柴は、この部屋の入室パスを変える為に俺と取引をしたんだ」
「なんでそんな事をっ?」
「だから先刻云っただろう?"お前の為に"、って」
「。。。!」
「総隊長と副隊長がデキてるなんて、現時点では特刑最大のスキャンダルだろう?
自分はどうなってもいいけどお前を守りたいから、パスを変えて入室制限して欲しいって、
そういう話さ」
「そんなのどうでもいいのに!」
空ろな瞳で、式部はうわ言のように呟いた。
「。。。バカだ。笑太君。。。」
「愛されてるな、式部。なのにお前は御子柴の思い遣りを信じきれなかったか」
――― 笑太君。ごめん!
式部は虚脱したように、壁に沿ってずるずると座り込んでしまった。
その無防備な姿を見て、五十嵐の胸に征服欲も湧き上がってきた。
式部の頭を鷲掴みにして手前に引き、膝を床につかせる。
「しゃぶれよ」
自分のペニスを取り出し、屹立するそれに式部の口元を押し付けた。
表情を失い、まさしく人形のようになってしまった美しい顔を見下ろして、五十嵐は妙な
高揚感を感じていた。
「御子柴より気持ち良くさせてくれよ」
その一言に式部は感情を手放して、機械的にそれを口に含み、嘗め始めた。
湿った舌が、軟体動物のように絡みついて蠢く。
はぁぁ。。。
まもなく五十嵐の口から喘ぎ声が漏れた。
そんなことをさせられながらも、式部にはこれが自分の身に起きていることという実感が
全く持てず、まるで他人事のように感じていた。
そして、頭の中ではぐるぐると同じ事を考え続けていた。

果たしてこれは事実なんだろうか?
それともみんな五十嵐の描く虚構なのだろうか?
どこまでが真実(ほんとう)でどこからが嘘なのか全く分からない。。。

突然頭を掴んでいた五十嵐の手に力が籠もり、意識を失いかけていた式部は強制的に
現実に引き戻された。
「全部飲めよ」
んっ!
五十嵐は短い声を発し、式部の口の中に射精した。
勢いよく流れ込んできたそれで噎せそうになったが、頭を押し付けられているので逃れる
ことも出来ず、式部はそれを飲み下した。
咽喉はごくっと鳴ったのを聞いて五十嵐は満足そうに笑い、咽喉が動かなくなったのを
確認してから頭を押さえていた手を離した。
五十嵐のペニスが引き抜かれ、式部の舌先から粘りのある白い液が一筋軌跡を描い
て伸び、そして切れた。
式部の身体は糸の切れた操り人形のように弾み、壁に当たって動きを止めた。
がくっ、と、頭が下を向く。
ふわりと広がったストレートヘアが、さらさらと乱れて落ちた。
その様子を見て五十嵐は、また嘲るように笑いながら追い討ちをかけた。
「イイ身体だな、式部。御子柴が離れられないのが分かった気がするよ」
――― 僕達の関係はそんなんじゃない。。。
頭に血が上る感覚はあったが、身体が現実逃避を起こしていて全く云うことを聞かない。
――― コワレてしまいそうだよ。。。助けて。助けて、笑太君。。。
そのまま、式部は壁にもたれた格好で蹲り、意識を失ってしまった。


気が付いたら、式部は自分の部屋のベッドの中に居た。
目の部屋からそこまでどう帰ってきたか?記憶は途切れていた。
自分で帰ってきた?それとも誰かが送ってくれた?
送ってくれたとしたら五十嵐が?と思うと背筋を悪寒が走った。
諜報課の人間なら式部の家を知っていても、合鍵を持っていても不思議は無い。
もしかしたら先刻のは夢だったのかも。。。?
そう思いたかったが、素肌に残るヒゲの感触が、口中に残る苦い後味が、それがウソでも
幻覚でもないと告げている。
だけど、それが何?というくらい現実感が無い。
感情が抜け落ちてしまって、何も感じない。
光も音も触感も、全ての感覚が遠くにあって自分が生きている実感も無い。。。
ベッドの上で呆然としていたら、ケータイに電話が掛かってきた。
画面に表示された発信者の名前を見て躊躇ったが、のろのろと電話に出た。
「もしもし。。。笑太君?珍しいね、そっちから掛けてくるの」
「寝てたか?ごめん」
「ううん。眠ってなかったけど、ぼーっとしてた。こんな時間に何?」
「あ、いや。何か無かったか?」
「何かって?。。。なんで?」
「いや。。。先刻お前が呼んでたような気がして」
式部は自分の感情や感覚が戻ってくるのを感じた。
本当は思い切り怒鳴って御子柴を責めたかったが、涙が溢れてきて声が詰まった。
「どうした?清寿」
「ん。。。なんともない」
式部が涙声なのは御子柴にも解った。
「何があったんだ?五十嵐がらみか??」
電話の向こうからは焦った声。身を乗り出した様子が見えるようだった。
「何にも無かったよ。。。」
わざとぶっきらぼうに答える。
本当の事を喋ってしまおうか、それともこのまま秘するべきか、式部は悩んでいた。
楽になってしまおうか、それとも苦しみを抱えて生きていこうか。。。
しばらく続いた沈黙を破るように、御子柴は深く溜息をついてからこう云った。

「話すことで苦しくなるのなら、俺は何も訊かないから」

それが御子柴の優しさなのは式部にも分かっていたが、今はとても痛かった。
「笑太君はそうやって自分の苦しみも飲み込んでしまっているの?」
「。。。」
そしてまた沈黙。
「何でもない。大丈夫だよ」
ウソはウソのままで。秘密は秘密のままで。そうする事に決めた。
本当の事を云ったら傷付くのは御子柴だと解っているから、何も無かったことにしよう。
「もう寝るね。笑太君も寝ないと」
「ホントに大丈夫か?」
このままこの声を聞いていたら、何もかも喋ってしまいそうになる。
「うん、大丈夫だってば。おやすみ。また明日」
納得していない様子の御子柴の言葉を遮るように電話を切り、式部はうつ伏せになって
枕に顔を埋めた。
――― 一度つき通そうと思ったウソはちゃんとつき通してね。
それは昨晩式部が、寝たふりをしていた御子柴に向かって呟いた言葉。
自分でそう云っておきながら、本当は不安でしょうがなかった。
その不安につけこまれて、あんなことをされてしまった。
全部自分のせいだ。。。と式部は己を戒めた。
――― 僕はウソをつき通そう。
     例えそれが終わりに繋がっているとしても。。。
      明日は何事も無かったように出勤して、仕事して。
     今まで通りに。いつも通りに。

静かな夜に目を閉じる。
自分の事を大事に思ってくれている人の存在を感じながら、式部はすとんと眠りに堕ちて
いった。。。


                     ―The end―






P.S.
Lieシリーズ最終章。
自分的には精一杯の“鬼畜系”(冷汗
この作品のイメージは鬼束ちひろの『Castle・imitation』。
歌詞の世界観がもの凄く好きな曲。
メロディも好きで何回聞いても飽きないくらい。
こういう絶望的で退廃的な世界に惹かれます。。


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