―Contracts or Lies. 1―


「昨日の夜は激しかったな」
本日の任務内容を聞き、部長室を出て廊下を歩きだした第一部隊の、式部の
左横に五十嵐がスッと近寄ってきて耳元で囁いた。
眉を顰め、式部は顔を正面に向けたまま横目でじろりと五十嵐を睨んだ。
「。。。最低だね」
「本当の事を知りたくないか?」
「別に。どうでもいい」
哀れむような表情(かお)で式部を見返し、五十嵐は声を殺して短く笑った。
「気になっているクセに」
御子柴は、式部に五十嵐がこそこそ話し掛けているのに気付いた。
だが、声が小さくて内容までは聞こえない。
ただ式部が、汚らわしいものでも見るような表情をしているのが気になった。
「今日仕事が終わったら目の部屋へ来いよ」
式部は目を瞑って顔を五十嵐から逸らし、その言葉を無視した。
ふふ、と、鼻で笑ってから五十嵐は、気にしていないフリをしながらもこちらの様子
を伺っていた御子柴と、少々訝しそうな顔をして式部の横を歩いていた藤堂に声
を掛けた。
「じゃあな。頑張ってこい!」
くるりとこちらに背中を向けて、片手を上げて颯爽と去って行くその後ろ姿を、式部
は苦々しい顔で見送った。
「五十嵐に何云われてたんだ?」
御子柴が歩調を緩め、式部と並んでから尋ねてきた。
「うん。。。大したことじゃないよ」
「その割にイヤそうな顔してたけど?」
「なんでも無いから!」
式部は御子柴から顔を背け、イラだったような口調で答えた。
しなやかな長い髪が広がって、御子柴の視界から表情を隠す。
声は小さかったが語調のあまりの激しさに、御子柴はそれ以上何も訊けなくなって
しまった。


「来たか」
返り血を浴びたままの制服姿で目の部屋に現れた式部を見て、五十嵐は笑った。
その、人を見下したような笑みが、式部の神経を逆撫でした。
「監視(み)られているのは分かってるけど、それは暗黙の了解でしょ。
僕達にもプライヴェートがあるんだし、口に出すのは諜報課としてどうなの?」
非難めいたキツい口調。冷たい視線。
いつもの穏やかな笑みを湛えた顔とは違う、怒りを抑えきれていない硬い表情。
このキレイな顔でこんな表情をされると堪らなくいじめてみたくなる。
自分の下に組み敷いて、よがらせてみたくなる。。。
五十嵐の心の中に歪んだ欲望が芽生えた。
「御子柴は昨日、仕事の後に俺と居たんだ。ここに」
勿体ぶるように言葉を切って、五十嵐は相手の反応を伺った。
式部の顔色は変わらない。髪一筋も微動だにしない。
それがまた、五十嵐の嗜虐心をくすぐった。
「そう。ここで、俺と取引してたんだ」
「取引?」
ぴくっ!と式部の片方の眉頭が動いた。
「そう。御子柴はお前の為に。。。」
「僕の為に?!」
五十嵐はイスから立ち上がり、動揺し始めた式部にじわじわと迫る。
その異様な迫力に押されて抵抗することも出来ず、式部はモニター画面と向かい
合う壁際まで追い込まれた。
「丁度今お前が立っているのと同じ場所に立って。。。」
式部の両肩の上、顔の両脇の壁に手を付き、五十嵐は目を細めるようにしてその
顔を舐るような視線で眺めた。
女性的な美貌。こちらを見据える澄んだ紫色の瞳。
艶やかな長い黒髪。きゅっと結ばれた赤い唇。
五十嵐は本気でいじめてみることに決めた。
「ある取引をする為に、俺に身をまかせていたんだよ」
式部の顔から血の気が失せた。
その僅かなスキに五十嵐は唇を奪った。
舌を深く差し込み、唾液で式部を内側から汚すような濃厚なキスを繰り返す。
唇を離さずに、全身で明確な拒絶を示している式部の抵抗に逆らって、無理矢理
剥ぎ取るように制服を脱がせていく。
鍛え過ぎでもなく、かと云って全く無い訳でもなく、程良く筋肉がついた細身の身体
に、五十嵐はむしゃぶりつくように舌を這わせた。
「五十嵐課長!自分のしている事が解っているの!?」
必死にその頭を自分から引き離そうとしながら、式部は叫んだ。
だが五十嵐は止めようとはせず、式部の白かった肌が上気してゆっくりと熱を帯びて
いくのを、唇と舌で堪能していった。
はぁっ。。。
式部の喉元が大きく仰け反って、甘い息が漏れた。
声を出さずに喘ぐのは式部の癖だと、目の部屋で御子柴との情事を何回か覗き見
した五十嵐は知っていた。
徐々に抵抗は弱まり、やがて式部の手に力が入らなくなって、五十嵐の髪をクシャッ
と掴むだけになった。
明らかに感じているその身体とはうらはらに、式部は眉間に縦ジワを寄せてぎゅっと目
を閉じ、苦しそうな表情をしていた。
これも式部の癖。
五十嵐はこの表情にいつも興奮を覚えていた。
「感度がいいな」
乳首を舌先で弄びながら、五十嵐は式部の一番繊細な部分を掴み、少し潤み始め
ていたその先端を指先でいじった。
ふ。。。うっ!
式部の全身が痙攣するように短く震え、苦渋の表情が深くなった。
「御子柴に教えこまれたか?」
耳元で囁かれた粘着質な言葉に、式部の顔色は更に紅潮した。
「ホント、最低だね貴方は」
涙でうっすらと濡れた瞳で五十嵐を睨みつけ、吐き捨てるように呟いた。
クククッ!
嘲るように短く笑った後五十嵐は式部の耳にもっと近付き、息を吹きかけるようにして
言葉でいたぶる。
「そのサイテイな男にいじられて、こんな風になってしまっているクセに」
心は決してここに無くても、身体は正直に反応してしまっている。
絶望にも似た屈辱感に支配され、式部は抵抗するのを止めた。
なされるがままになった身体の腰から後ろに向かって、五十嵐は指を進めた。
そこで式部は我に返った。
「あ!ダメ!!挿入(い)れるのはダメ。。。!」
両腕に渾身の力を込めて五十嵐の身体を突き放そうとし、拒絶する。
「イヤだっ!お願い止めて。。。」
執拗に攻めようとする指先をかわしつつ、式部は懇願するように云った。
その切ない表情が、口調が、五十嵐を煽る。
「御子柴の為に貞操を守る、か?」
式部は返事もせず、ただ鋭い視線で五十嵐を睨み付けた。


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P.S.
“Lies and Deals”“Lie to me”に続く
ウソ(Lie)がコンセプトなストーリィの前編です。
なんとなくシリーズ化してしまいました。
五十嵐、悪役ですね。。
ファンの方ごめんなさいm(_ _)m
後編はもっと激しくてイタい話ですが、
にリンク貼りましたので、
そちらもよろしく。。


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