―an Unusual Day Jan.8th―


おかしい、と、朝から気付いてはいた。
どこがどんな風におかしいのか指摘出来る程確信は無
かったが、どこかがおかしい、と感じていた。
朝が苦手で仏頂面で入ってきた途端に大あくびをする
御子柴も、ふとした時に視線が合うと目だけで笑みを
返す式部も、ドアが壊れるかと思うくらい勢いよくやって
きた藍川も、冷静に見せたいのにすぐに熱くなる上條も
。。。いつもと同じに見えるのにどこか違和感があった。
夕方になり任務完了報告に来た第一に明日の任務
の説明をして終わり、3人が出て行こうとした時に藤堂
だけ呼び止めて訊いてみようか、と思った。
何かあったのか?それとも何かあるのか?
しかし、何と云い出したらいいのか迷ったので止めた。
入隊した時から相も変わらず無表情で無感情に見え
るこの新人は、きっと何も知らないだろう。
そんな確信もあったからだ。
知らされていないのか、知りたくないから無関心でいる
のかは分からないが、部隊員として上手くやっていけて
いるのならそれで良し。
それから先は個人の問題で、私には関係ないことだ。
「五十嵐君」
説明で使った資料を片付けたり、ホワイトボードをキレ
イにしていて、こちらに後ろ姿を見せていた五十嵐に声
を掛けてみた。
「はい?」
一瞬ぎくっ、と全身が強張ったように見えたが、突然呼
び掛けられたから、というようにも見えた。
振り返った時の声も表情も冷静だったから、気のせいだ
ったかもしれない。
「いや。。。なんでもない」
「なんですか?」
童顔なのを隠す為に伸ばし始めた顎鬚を撫でながら、
五十嵐はにやり、と笑いながら、語尾上がりに云った。
「ご質問があれば何なりとお答えしますよ。答えられる
質問であれば」
慇懃無礼な口調と笑みに、引っ掛かった。
「今日なんだかおかしくないか?」
はぁ?という表情(かお)で、見返される。
「"おかしい"って、何がですか?」
確かに質問にしては散漫すぎる。自分がされたとして
も、これと同じ反応を返すだろう。
「いや、だから。。。なんとなくなんだが」
「全く。。。ど〜したんですか?三上さんらしくない」
五十嵐が可笑しそうに口を開けて笑った。
「別に、いつもと何も変わりないですよ」
この男もこう見えて鋭い方だから、何も感じていないので
あれば、きっと私の気のせいだろう。
目を伏せてゆっくりと息を吐き出して自分を落ち着かせ
ようとしている私の様子を興味深そうに眺めて、五十嵐
はにやにやと笑っていた。
「疲れてるんじゃないんですか?年末年始どころかここ
数年全然休んでないでしょう?」
「それを云うなら君だって変わらないだろう?」
「なんだかおかしいのは貴方の方だと思いますがね」
そうか。。。そうかもしれない。
こんなに周りのことが気になることなど無いのに。
ふぅ。。。と溜め息を付き、イスから立ち上がる。
「。。。?どこか行くんですか?」
五十嵐には私の動作が唐突に見えたらしい。
冷やかすような笑みが引っ込んで、驚いた顔になった。
「法務大臣のところへ行ってくる。呼び出された」
大臣に呼ばれる時はろくな事があった試しがない。
しかもこの人の呼び出しはいつも突然で、こちらの都合
等お構いなしだから、迷惑な時もある。
「呼び出し?何かあったんですか?」
「さぁ。先刻メールで呼び出されただけだから、詳しい事
は全く知らされていない」
同じ建物内に居るというのに、何故PC経由のメールを
使うのか?
いつもは柚原室長が直通電話を掛けてくるのに、今日
に限って何故かメールで呼び出されたことに一抹の疑問
を感じながらも、デスクを離れてドアの方へ向かって歩き
出そうとしたその時だ。
「三上さん、今夜呑みに行くって約束してたの覚えてま
す?」
頭の中をスケジュール表が駆け巡った。
「そんな約束。。。してたか?」
「大分前に、まだ法廷が本格的に始動しだす前に1度
くらいは呑みに行けたらいいな、ってさ」
五十嵐はにこにこと、髭面に笑みを浮かべている。
「そうだった。。。か?」
「覚えてないんですか?ホントらしくないなぁ、今日は。
気分転換に今夜どうです?何か予定入ってます?」
とりあえず今夜の予定は無い。
終わっていない仕事はあるが、これは簡単に終わる
内容でも量でもない。
「ない。空けておく」
「じゃ、行ってらっしゃい。ここ片付けたら俺は諜報課
の方に居るから」
「ああ、分かった」
背後でまた五十嵐が、にやり、と笑ったようだった。
朝から感じていた違和感は、まだ消えてはいなかった。

柚原室長は不在で、別の者に案内されて大臣室に
通された。
今日の獅洞大臣の話は、失礼を自覚した上で云わ
せてもらうと、ただただ冗長だった。
何故今その話をするのか、今する必要があるのか。
上機嫌でチョコレートバー等を勧めてくるが、そんな物
は欲しくはない。早く開放してくれることを願って、適当
に相槌を打って時間が過ぎるのを待っていた。
内線が、鳴った。
はい、と、獅洞大臣が応対して、一言二言言葉を交
わした後スイッチを切りながら、にやっ、と笑った。
「すまん、急用が出来た。話の続きは後日ってことで」
腹の底から付きそうになった溜め息を喉元で止めて、
一礼して大臣室を辞する。
柚原室長はまだ不在であった。これも珍しいことだ。
獅洞大臣は優秀だか非常に手の掛かる人物で、その
世話は室長が一任されている筈なのに。

今日はなんだかおかしいことだらけだ。

五十嵐の云うように疲れているのかもしれない。
目を伏せてこめかみの所を片手の指でマッサージしな
がら、自分の部屋のドアノブに手を掛ける。
かちり、と重い感触がした。
五十嵐が閉めていってくれたようだ。
また、違和感があった。なにかが、おかしい。。。
カードキーを取り出し、スリットに挿し込む。
「。。。?」
部長室の中は真っ暗だった。
この部屋の電気を消すのは私だけで、不在の時に
入ったからと云って五十嵐が消灯していった事など
今まで一度も無い。
そうだ、カギを掛けて出て行ったことも、長い付き合
いなのに今まで一度も無かった筈だ。。。

「お誕生日おめでとう!三上部長!!」
「ハッピーバースディ♪」

急速に視界が明るくなって、メガネに反射した光で
目が眩み、クラッカーの音とも拍手とも判別出来ない
音が耳元で響いた。
「。。。!お前達。。。」
第一から第三までの隊員と諜報課の一部の人間が、
全員笑顔でこちらを見ていた。
柚原室長まで穏やかな笑顔で微笑んでいた。
手にはシャンペンのボトルを持っている。
そうか。。。大臣まで一枚噛んでいたということか。
このシャンペンの出所は大臣というところだろう。
どこから運び込んだのか、部屋の中央に仮設された
大テーブルの上にはケーキやらケータリングしたらしき
料理やらが落ちそうな程に乗っていた。
ドアから1歩入ったところで立ち止まっていたら、藍川
と久宝に両腕を引かれてテーブルの近くまで連れてい
かれ、式部からグラスを渡された。
御子柴が室長から受け取ったボトルからシャンペンを
そのグラスに注いでくれた後、自分で持っていたグラス
を少し高い所に掲げ持った。

「今年もよろしく、三上さん。乾杯!」

あちらこちらから伸ばされてきた手に持たれたグラスが
私のグラスと触れ合って、カチンカチン、と軽快な音を
立てる。
ケーキに立てられた蝋燭の火を吹き消せと煽られて、
戸惑いながらも一気に吹き消す。
歓声と拍手。祝福の言葉と笑顔。
なんだかおかしい。
この場の中心に居るということに、違和感がある。
最後に誕生日を祝われたのは何時だったか、覚えて
いない。
胸の奥が温かくなったような気がした。
目の奥が熱くなったのは、気のせいだろう、と思うこと
にした。
「なんだよ〜泣かねぇのかよ。もっと感動してもらえると
思ってたのにさぁ!」
「お祝いの気持ちは伝わってますよね?三上部長?」
盛り上がっている場から少し離れたところでしみじみと
呑んでいたら、御子柴と式部がケーキを乗せた皿を
持ってきて、好き勝手なことを云う。
「では、三上部長からお言葉を!」
誰かがそう云いだすと、囃す声と笑い声が弾けた。
まだまだ夜は終わらないようだ。。。


              ―The end―







P.S.
Happy Birthday 三上さん!
ってことで(笑
たまにはこんなことがあっても
いいんじゃない?
。。なんて思いまして(^-^*
08/01/08


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