―The Degree of Transparency―


今年最初の処刑は、前年度から他の部隊が追っ
ていた死刑囚へのものだった。
法廷は数日前から休みに入り死刑判決は出てい
ないが、既に死刑は確定しているが逃亡している
死刑囚というのは何名も居て、そのうちの一名でも
見付かると厄介なことになる。
新年の、世の中の人が平和に浸っているこの時期、
小さなミスも許されない。
それでなくともROT法や特刑への反対論者は多い
ので、ニュースになるような事があってはならない。
そうなると担ぎ出されるのは第一部隊と決まっていて、
今年も新年早々の出勤、となった。
なんてことない相手だったのになかなか捕捉出来ず。
追跡に時間が掛かってしまい、無事に処刑を終え
て法務省に戻ってきた時にはもう、夜、だった。

「ねぇ、笑太君」
「バカ、舌噛むぞ」
「。。。噛んでいい?」
「俺のかよ?!」
軽く笑みを浮かべた唇を唇で覆い、食むように何度も
重ね合わせる。
拒もうとしても無理矢理入ってきて動き回る舌の感触
に、ぶるっ、と、身体を震わせて、式部は御子柴の裸
の背中に回した腕に力を込めてしがみついた。
「あのね」
「だからぁ、舌噛むって」
瞬間、2人の口の中に、鉄っぽい味が広がった。
唇を離すと、式部の固く閉じた唇の間から、淡く血が
滲んで見えていた。
「ほら云ったこっちゃない。。。口開けてみ」
細い顎を掴んで顔を上に向かせて、御子柴が子供に
云うような口調で云う。
「結構切れたんじゃね?」
頭を左右に振って、式部が答える。
「らいひょふ、らよ」
「"大丈夫"って云うなら、ちゃんと口開けて喋れって」
御子柴は舌を長く突き出して、固く閉ざされた式部の
上下の唇の合わせ目の血を拭うように、ぺろっ、と、舐
めた。
それでも口を開けようとしない強情さに溜め息を付きな
がら、御子柴が式部の顎を掴んで関節に指を掛けよう
とすると、やっと、小さくて短い悲鳴と共に口が開いた。
「あ、止めて!」
その隙に、指に力を入れて口をこじ開ける
「んーっ、んーっ!やらって!」
「"ヤダ"云うな。見せろって。ああ、舌じゃなくて頬の
内側、噛んだのな」
覗き込んで口の中を観察している御子柴の指を、
式部は頭を強く振って払い除けて、ふぅ、と息を吐く。
「指の痕(あと)が付いちゃうってば!そんなに力入れな
いでよ」
両頬を庇うように両手で覆い、押さえられたところを円
を描くように撫でている様子を見て、御子柴は笑って
しまった。
「ヒドいよ。なんで笑う。。。?。。。っ!」
式部が驚いて身体を引くよりも早く、首筋から胸元へ
落ちた唇が、鎖骨の下を強く吸って"跡"を残す。
「"アト"なんて、いくらでも付けてやるよ」
にかっ、と、歯を見せて笑った御子柴を怒れなくて、
呆れたように笑った式部の唇は、次の瞬間には奪い
取られて口の中まで舐められてしまう。
「清寿の血の味がする」
「そんなの分かるの?」
「分かるさ」
「またぁ。ウソばっかり」
疑うように云う式部の裸身を強く抱いて、濡れた髪に
顔を寄せて御子柴が答える。
「お前がもし原型を留めないくらいバラバラにされても、
髪と血の匂いと俺が付けた跡で絶対に分かる」
「なら、安心だね」
にこっ、と、式部が微笑む。
「安心して、死ぬことが出来る」
その笑顔が純真すぎて、直視出来ずに目を逸らす。
「バカ。ここは"そんなこと云わないで!"って怒るとこ
だろうが」
横を向いてしまった御子柴の頬を両手を挟むように
掴んで、式部は、ぐいっ、と、自分の方を向かせた。
「僕だって、きっと、分かる。どんなに悲惨な最期を遂
げようとも、笑太君のことはきっと見付けてあげられる」
美しく弧を描く唇を見て、御子柴は軽く身震いした。
「なんかお前、無茶苦茶しそうで怖いな」
「そうだね。本当にそんな事になったとしたら、冷静で
いられる自信ない」
内容とはうらはらな穏やかな口調に、御子柴の背筋
にぞくっ、と寒気が走る。
「ところでさ、先刻お前、何が云いたかったんだ?」
動揺してしまったのを見透かされないように、慎重に
話題を逸らす。
「あ、そうそう」
式部の表情が緩む。
深くくちづけを交し合っている最中に云い出そうとして
いたのは何なのか、御子柴は気になっていた。
「あんまり長いと怪しまれるよ、って」
「何が?」
「シャワールームに一緒に居るのが」
「なんだ、そんなことかよ?」
脱力した御子柴の溜め息は、床に叩きつけられて散る
飛沫の音に紛れて消えた。
「だからさ、今日は俺達以外全員自宅待機だって。
羽沙希もとっくに帰ってるだろうし、誰もいねぇよ」
「でも、諜報課の人達とか。。。五十嵐課長とか。。。
三上部長とか。。。居るし」
「あいつらはこっちには来ないだろ?」
処刑隊員の待機室は静まりかえっていて、隣接する
このシャワールームから聴こえる水音だけが響いている
筈だ。
「でも。。。」
「"でも"何だよ?」
歯切れの悪い式部に、ちょっとイラ立つ。
「イヤなのかよ?」
壁際に寄りかかるようにして立つ式部を抱きかかえる
ような体勢になって、御子柴は後孔へ指を滑らせた。
「あ。。。あぁん。。。っ」
水音で掻き消されてしまう抑えた喘ぎ声は、式部が
外を気にしている証拠だ。
「誰もいねぇって。なんで外、気にすんだよ?」
一番感じる点を探り当てられて、何度も指で擦られて
漏れ出しそうになる甘い声を、式部は御子柴の左肩を
軽く噛んで耐えていた。
「う。。。だって。。。こんなとこで。。。」
全身で喘ぎながら、弱々しく答えが返される。
「今年最初。。。なのに。。。」
「そう、だったな。。。」
潤んだ瞳で見上げられて、御子柴は申し訳なさそうに、
力なく笑って返すことしか出来ない。
「ちゃんとご馳走作って一緒に食べて、暖かい部屋で、
ベッドの上でしたかったな。。。」
困ったように歪んだ唇を掬い上げるように、式部は軽く
くちづけた。
「はい。これで今年の初わがままはお終い。ごめん。今日
は蓮井警視お休みなんでしょ?ちゃんと分かってるよ」
式部の手が、黙ってしまった御子柴の髪を柔らかく撫
でる。
「今年も、一緒に生きていこうね」
御子柴は、式部の身体を強く抱き寄せた。
「無茶苦茶するなって僕にばっかり云うけど、自分だ
って相当無茶するじゃない」
壁に背中を押し付けるようにして両足を抱え上げられ
ても、式部は御子柴に諭すように云い続けていた。
「笑太君だけ先に逝く、なんて、絶対に許さないから」
御子柴に貫かれて、式部の身体が跳ねる。
「はぁんっ。。。笑太くん。。。っ」
「清寿。。。っ」
出しっぱなしのシャワーの音が淫らに交わり合う音も
激しくなる呼吸(いき)の音も消し去って、ただ、互いの
名を呼ぶ声だけが聞こえていた。

「。。。!羽沙希?!」
火照った身体を冷ました後更衣室に戻ると、部屋の
隅の方で藤堂がぼんやりと座っていた。
「ええっ??先帰ってて良かったのに!待ってたの?
羽沙希君。。。」
眠そうな顔をして、藤堂が、こくん、と、頷いた。
「まだきちんと新年の挨拶をしていなかったので」
ゆっくりと立ち上がり、藤堂は深く頭を下げた。
「今年もご迷惑をおかけするかもしれませんが、どうぞ
よろしくお願いします」
「こ、こちらこそ」
「新年からこれじゃ、俺らの方が面倒見てもらうことに
なりそうだなぁ。。。」
慌てて頭を下げて返した2人の上司の顔が真っ赤に
なっていることに、藤堂は気が付かなかった。


               ―The end―






P.S.
A Happy New Year!

死刑判決は出なくても
逃亡している死刑囚が居る限り
彼らにお休みは無いんじゃないかと。。
お正月に休めたことのない乾は
考えてみたワケです。
この話の前、新年の昼間の話は
『HYPNOTIC DOLLS通信2008新春号」
に書いてみました。
↑の話の方が
実は気に入っていたりします(汗

なにはともあれ。。
今年もよろしくお願いします。
08/01/02 Wed


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