―Everything You―
           after"Ask, And It Shall Be Given You"



手を引き寄せて、絡ませあっていた指を解くようにして
1本づつ爪先から付け根まで味わうように舐めるのが
好き。。な、クセに。
でもね、そういうところが、好き、なのかもしれない。


「貸せよ」
「ヤダ」
「なんでだよ?俺がやったんだから貸せって」
「イ・ヤ」
「なぁ清寿ぅ。。。お願いだから」
先刻からこんな感じで会話がループしている。
法務省を出てから数分、ずっと。
先を行く清寿の後を追い駆けるように歩いている俺は、
きっと情けない顔をしているに違いない。
追い着きそうになって手を取ろうと腕を伸ばすと避けら
れて、清寿が振り返る。
さらっと広がった髪に半分隠れているけれど、その時だ
け笑顔を見せる。
そしてくるっ、と前を向き直り、もっと歩く速度を上げる。
ずっと、その繰り返し。
半ば小走りに歩く、白いコートに包まれた清寿の背中
に向かって俺がついた吐息が白く広がった。
「返せって云ってるワケじゃないんだからさぁ」
「イヤなものはイヤ」
優しげな見た目に反して、こいつは気が強くて頑固だ。
ま、そうでなきゃこの仕事なんかやっていられない。
でも、俺もお前以上に頑固なんだってば。
「清寿っ」
やっと追い着いて、右手首を捕獲。
カフスに仕込んだワイヤーの冷たくて硬い感触に、はっ
とする。
清寿はようやく足を停めて、きっ、と俺を睨んだ。
「離して。じゃないと叫ぶよ」
「なんてだよ?」
「“きゃ〜!痴漢っ!!”って」
本気、の表情(かお)。性質(たち)が悪い。
天下の公道でそんな事されたら立場が悪い。
「いい?叫ぶよ」
しかもこの状況。。。絶対的に俺に不利。
すぅっ、と息を吸いこんだ清寿の口を、左手の平で覆う。
「。。。のっ、バカ」
「いいよ、バカで」
ぎゅっと口を閉じて、つんっと顔を横に背ける。
「なんでお前そんなに意地になってんだよ?」
これじゃまるで痴話喧嘩だ。
少し前から緑地帯に入って人通りが少なくなったとは
云え、通りがかりの人達にちらちら見られている。
それが妙に恥ずかしい。
「んなとこで恥ずかしいだろ。ほら、早く外せよ」
「僕は恥ずかしくなんかない」
ここまで意地を張られると、俺も余計にムキになる。
清寿の左腕を取ろうとしたら、全身で拒否された。
「これは僕が貰ったんだから、絶っ対に返さないよ」
左手を強く握りこんで、俺の視界から隠すように身体の
向こうに押し当てている。
「だから、なんでそんなに意地になるんだって」
俺が見たかったのはこんな顔じゃない。
「意地になってるんじゃないもん」
俺を睨む目が、うるっ、と潤む。
ここで泣き出されるのも俺的には立場悪いんだけど、
もう引込みがつかない。
「ホラ、違うサイズのに交換してもらってくるだけだから、
指輪、外せって」
「やだっ!」
「なんでだよ?」
「イヤなものはイヤ!ってさっきから云ってるじゃない」
鼻の頭を真っ赤にして、ものスゴい勢いで睨み返して
くる。
こんな顔、任務の時以外見たことない。。。


クリスマスのプレゼントはこれにしよう、と、大分前から
決めていた。
体温が低くて寒いのが平気なクセに寂しがりやで、
一緒に居る時はくっ付いていたがるから暖かい物を。
似合いそうなコートを見付けたから、それを取って貰
っておいた。
真っ白でふわふわが付いた、柔らかい素材で出来た
暖かそうなハーフコート。
似たようなのを着ていた気がするけれど、男のクセに
こういうのが似合う。
そしてもうひとつ。
俺は結構シルバーアクセが好きで、プライヴェートでは
指輪とかウォレットチェーンとか結構付けている。
この前清寿の部屋に居る時に雑誌を見ていたら、ある
指輪に目が留まった。
「気になるのあるの?これ?」
「そ。どう?」
「カッコいいね。笑太君なら似合うと思うよ」
集中している俺の手元の雑誌を覗き込むようにしてきた
清寿にそれを指差して示すと、微笑みが返ってきた。
俺に、じゃなくて、お前にだよ。
これ、絶対お前に似合う。
心の中で呟いて、それもプレゼントの候補にした。
けれど、肝心のところで詰めが甘かった。
こんなもんだろう?と自分の指の太さに合わせて買った
それは、清寿には大きすぎたようだ。
「本当に驚いちゃった!笑太君、どうもありがとう」
イブの翌日、つまりはクリスマス当日の朝、清寿の左手
の中指に嵌められたそれを見た時、驚いたのは俺の方
だった。
「お前。。。俺より指細いんだな」
「今更何云ってんの?いつもあんなに弄ってるクセに」
顔色ひとつ変えずに、さらっ、と云い返されて、顔に血が
上る。
あまりに自然だったから、清寿とは反対側の隣で着替え
ていた羽沙希は気付かなかったようだ。
「笑太君のはぴったりだったでしょ?」
清寿がくれたプレゼントは全く同じデザインの指輪で、
それは左右どちらの薬指にもぴったりだった。
左の薬指に嵌めてあったそれを見て、清寿が嬉しそうに
微笑んだ
これじゃちょっと俺、情けなくないか?


「婚約してるワケじゃないだから、どの指に嵌めようが僕
の勝手じゃない!」
清寿は俺の手を力いっぱい振り払い、自由になった右手
で、左手で作っていた拳を包むように握った。
「それでも外せっていうなら、ワイヤーで指、切るからそれ
ごと持ってけば」
「おま。。。何云って。。。」
「パパとママ以外の人に初めて貰ったクリスマスプレゼント
だもん」
ぎゅっ、と握り締めた自分の手の甲にくちづけるように唇
を当てて、目を閉じて云う。
「笑太君に初めて貰った、大切な物なんだもん」
形に残るようなモノは、今までやったことは無かった。
欲しいと云われたことも無かった。
いつ死ぬかも分からない。いつ喪うかも分からない。
だから最期まで一緒に居る、という、守れないかもしれ
ない約束しか、やったことは無い。
「欲しいなら欲しいって。。。云えば良かったのに」
俺の呟きに、清寿は目線だけこちらへ向けた。
「欲しいなんて思ったこと無かったけど、貰ったらスゴく
嬉しかったんだ」
目線を前に戻し、顎を少し上げるようにして斜め上を
見上げて目を瞑る。
「クリスマスイヴの間、ずっと握ってた。笑太君が近くに
居てくれてるみたいであの夢も見ずに眠れたんだ。
だから、これじゃないと絶対にイヤ」
そして中指に嵌められた指輪に唇で軽く触れて、微笑む。
「それにこれ僕があげたのと同じサイズだから、笑太君の
と全部お揃いなんだよ。だからこれがいい」
こんなに欲していたことを、こんなにも求められていた事
を、俺は今まで気付かずにいたなんて。。。
それの方が情けないか。。。
清寿の頭を抱き寄せる。
再び握り締められた手が俺と清寿の身体の間に挟まって、
俺の心臓の上にくる。
「こんなとこで恥ずかしいんじゃないの?」
「もういいよ。そんなの」


今宵限りで消える聖夜の煌めきが、滲んでみえた。
涙のせいかな?と思ったら、雪、だった。
そして、泣いているのは僕じゃなくて、君の方だった。
頬を伝って砕けて落ちてくる涙が、粉雪、みたいで。
でも、温かかった。


―The end―






P.S.
副題にも付けましたが
“Ask, And It Shall Be Given You”
という話の直後くらいの話。。
あまあま。。?(汗
『DOLLS』5巻出た後ですしね!
何度見てもあの見開きページで
御子式ファンは萌えられます(笑

BGMは山崎まさよし
“全部、君だった”と“8月のクリスマス”。
どっぷり切なさに浸れる名曲です。


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