―Ask, And It Shall Be Given You―


零れるような星月夜。
想っていれば伝わるなんて信じる歳ではないけれど、
祈っていればきっと通じる。。。なんて甘い?


自室に戻り、ドアにカギを掛けたのをもう一度確認して
から、御子柴は通勤の時に着ていたレザージャケットの
ポケットを探った。
そして、手の平に収まるくらいの小さな箱を取り出す。
白地に星の結晶が浮き出すようにデザインされた包み
紙の上に、薄い素材で出来たリボンが控えめに掛けて
ある。リボンの色は紫色。
それを見て、今日の帰り際、更衣室を出ていく時に見
せてくれた微笑みを思い出す。
―――Merry Christmas!
もう一度抱き寄せてしまいそうになった御子柴を拒むよ
うに力んでいた瞳と同じ色だった。
ぐいっ!と押し付けられるように渡されたモノがクリスマス
のプレゼントだと気付いたのは、式部が帰ってしまった後
だった。
不甲斐ない自分に溜め息をつきながら、リボンを解く。
「。。。っ!」
思わず叫んでしまいそうになって、慌てて口に手を当て
て声を飲み込む。
「。。。あいつ。。。今頃驚いてるだろうなぁ。。。」
ホクロのある口元が弛んで、優しい笑みが漏れた。


「ええ〜っ!?」
佐伯と久宝が驚きの声を上げて、非難するような目で
藍川を見た。
「蘭美、貴方なら絶対気付いてると思ったのに。。。」
「絶対に気付いたと思ってた。。。私でも分かったのに!」
同時に同じことを云われて、藍川が顔を顰める。
「なっ、なによ!慈乃はともかく綾寧まで。。。」
少し俯いて上目遣いに2人の顔を見上げ、拗ねたよう
に唇を尖らせた。
「ほんっとに気が付いてなかったんですか?」
目を丸くして尋ねる久宝の顔を見て一瞬悔しそうな顔
をして、藍川は諦めたように頷いてみせた。
はぁぁ!と大きく息を吐いてから佐伯は藍川の目の前に
手の平を広げ、中指の付け根を反対の手の人差し指
の先でポンポン!と叩いてみせた。
「何よぉ〜。。。そんなんじゃ分かんないっ!」
「藍川〜なぁに拗ねた顔してんだ?美人が台無しだぞ」
突然背後から声を掛けられて、佐伯も久宝もびくっと飛
び上がった。
「も〜!いきなり女のコの話に入ってこないで」
つん!と横を向いてしまった藍川を見て呆れたように笑
いながら、御子柴が訊いてきた。
「あのさ、清寿見なかった?」
「先程お菓子をいただきましたが。。。」
久宝が答えている間に、横から腕を肘で軽く突付かれて、
藍川は佐伯の方を見た。
佐伯は軽く片目を瞑ってみせると、今度は手を下に下ろ
したまんま、御子柴を指差した後左手のある部分を叩い
てみせた。
「。。。あーっ!!」
突然の大声にその場に居た3人は耳を手で覆って、声
を出した藍川に注目した。
「分かった!」
その時藍川の頭の中では、つい先刻、式部がやって来
た時の記憶が再生されていた。

「メリークリスマス!」
小さな包みを第二部隊の3人に手渡しながら、式部が
満面の笑みを浮かべて云う。
帰る間際なのか、式部は珍しく私服姿だった。
「今年はなぁに?」
「今年はねキャラメル。初めて作ったから心配なんだけど」
メリークリスマス、と答えながら受け取って、藍川が軽く
笑い返す。
「去年はブラウニー、その前はフィナンシェ。。。」
「最初の年は普通にクッキーだったのよね」
指を折って記憶を辿り出した藍川の横から、佐伯が口を
挟む。
「良く覚えててくれてるね。なんか嬉しいな」
この麗しい微笑み付きの手作りスィーツのプレゼントは、
今や特刑部の一部のメンバーが楽しみにする、毎年恒例
のクリスマス行事になりつつある。
「副隊長ってマメよねぇ。。。私がお嫁さんにもらいたいくら
いだわ」
「やっぱ嫁なんだ?」
式部が失笑した。
「"嫁"、でしょ?なんか間違ってる?」
ぐいっ、と顔を近付けて問い質してきた藍川にも、式部は
笑顔を崩さない。
「やればデキるクセにだらしないツレの面倒ばっかり見せら
れてて。。。ホント大変だなぁって思ってるのよ、いつも」
勝手にうんうん、と頷いている藍川を見て、佐伯が呆れた
ような表情(かお)をする。
「それよりも副隊長、やたらと可愛いカッコしてる気がする
んだけど。。。そのコート、どこの?」
フードの縁と裾にぐるりとふわふわのファーが付いた、真っ白
に近いオフホワイトのハーフコート。大きさ的には男性ブラ
ンドのモノらしいが、ふわりと広がるラインが柔らかい雰囲気
で、細身に見えて実は結構ガタいがいい成人男性が着る
には可愛らしすぎるデザインのコートだ。
「あ、これね」
素面なのに酔っぱらいみたいに絡んでくる藍川に、式部は
ほんのり頬を赤らめて、幸せそうな笑みを返す。
「笑太君からのプレゼントなんだ」
女性3人の口から同時にはぁ。。。と、吐息が漏れる。
「こういうのさぁ。。。買っちゃう方も買っちゃう方だけど、
着ちゃう方もオトコとしてどうかって思うわ」
藍川がいつもより辛辣なことを云ってしまう理由は佐伯
には分かっていたが、式部が機嫌を損ねるんじゃないか
と、ひやひやしなから見守っていた。
「え?似合わない?」
にっこり。無邪気な、という形容詞がぴったりの微笑。
「。。。めちゃめちゃ似合ってるわよ」
「ありがとう!」
式部の勝ち。藍川の完敗。
佐伯も久宝も堪えきれずに笑い出してしまった。
「じゃ、他の人のとこも行かないといけないから」
そんな2人を睨み付け悔しそうな顔をした藍川を見て、
式部は笑いながら左手ですうっと髪を掻き上げた。
「素敵なクリスマスをね!お疲れさまでした」
中指に嵌められたシルバーのリングをわざと見せるよう
にして。。。

「なんであっちは中指にしてんのっ?!」
藍川が御子柴の左手をむずっ!と掴んで持ち上げて、
責めるような口調で云った。
「。。。俺がサイズ間違えたんだよ」
クロスモチーフが印象的な、ゴツめのシルバーの指輪。
2人が嵌めているリングが同じデザインのモノなのはすぐ
に分かったが、御子柴はちゃんと薬指にしているのに、
式部は確か中指にしていた。
「なんでっ!?一緒に買いに行ったんじゃないの??」
いちゃいちゃとリングを選んでいる姿を想像してしまって、
藍川は強く頭を左右に振って打ち消した。
「いや。別々。偶然同じの選んだらしい」
はーっ。。。と肺の中の空気を全部吐き出すように長く
息を吐いて、藍川は握っていた手を離した。
「なんかね〜。。。もうお腹いっぱい。ご馳走さま」
不思議そうな顔で自分を凝視している御子柴に藍川
は力なく微笑んでみせた。
「副隊長あっちに行ったから、諜報課のとこにでも行った
んじゃない?」
「了解。探しに行ってみる」
身体の向きを変えかけて、ふと、御子柴が振り返った。
「そうだ、藍川」
眩しいくらいの笑顔が投げ掛けられる。
「楽しいクリスマスの夜を過ごせよな」
遠ざかっていく足音を聞きながらガックリと肩を落とした藍川
の頭を、佐伯は優しく撫でてやった。
「どうせ3人共フリーなんだから、呑みに行かない?」
「クリスマスの夜なのに女3人で。。。」
「行きましょ行きましょ!いっそキリコさんも呼びましょうか?」
背中を押されて促され、とぼとぼと歩き出した藍川の後ろ
で、佐伯と久宝は目を見合わせてこっそり溜め息をついて
いた。


―The end―






P.S.
イヴは多分別々に。。だろうから
(タマって記念日とか好きそうだから。。)
だからこれはクリスマス当日の話。
クリスマスプレゼント、清寿は
“We Wish Your Merry Christmas”
という、以前UPした話の中で
既に受け取っているんです。
で、開けてびっくり!という話。。

蘭美ちゃん、大好きなんです。
でもいつも可哀想になっちゃうかも。
蘭美ちゃんにも慈乃さんにも綾寧ちゃんにも
いつかHappyなChristmasが訪れますように!


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