―Fatal Affection―


こちらに背中を向けていたので、
身体を起こして覗き込んだら目が合った。
「眠れてなかった?ごめん。。。もしかしていつもでしょ?」
ダメ元と思い切って「傍で眠って欲しい」とお願いした日以降、
笑太君は何回か僕の部屋を訪れていた。
特に精神的にストレスがかかって僕が弱っている時に、
それを気遣って来てくれる。
そして朝になると決まってこう聞いてくる。
「良く眠れたか?」
その時、いつも眠そうな顔をしているのには気付いていた。
「う。。。ん。今目が覚めた」
寝返りを打って仰向けになり、目線だけこっちに遣って
笑太君は答えた。
それがウソなのは分かっていた。
僕が目を覚ましたのは笑太君の溜息のせいだ。
どこかツラそうな、深い深い吐息の。。。
「ツラい?」
その問い掛けに、笑太君は目を丸くした。
「?何が?」
僕は何も云えずに黙り込む。
笑太君はキツい時もあるけれど、基本的には自分が大切だと
思っている者を傷つけるような事は云わない。
だからきっと、本当の事は云ってくれない。
黙ってしまった僕の顔を、今度は笑太君が覗きこんだ。
「ツラくは無いよ。でもう〜んと。。。ちょっと苦しい、かな?」
「苦しい??」
思ってもいなかった返事に驚いてしまった。
「なんで?(笑)」
笑太君は僕の目の前で前髪を掻き上げて、
少し考え込んでから云った。
「最初はお前が眠れるんだったらいいや、と思ってた。だけど。。。」
「だけど?」
「今はちょっと複雑。。。かな」
もっと意味が分からなくなった。


考え込んでぼーっとしていたら急に目の前に笑太君の顔が
近付いてきて、いきなりキスされた。
こういうのは初めてじゃない。
前は待機室で眠っていたところを起こしに行ったら不意打ちされたっけ。。。
でもその時と違う、呼吸が出来ないほど強く長く執拗なくちづけ。。。
苦しくなって、覆いかぶさってくる笑太君の肩を必死に押す。
でも鍛えてある筋肉はびくともしない。。
抗議したくても声が出せず。
抵抗したくても押さえ込まれていて身体の自由が効かず。
やがて僕の身体に沿って下がっていった手が、僕の中心に、触れた。
あぁっ!
思わず喘ぎ声が出そうになる。
でも僕のノドも舌も、笑太君の唇と舌で封じられたまま。
逃れようと悶えるけれど、笑太君は離してくれない。
笑太君は"僕"を右手で玩んだまま、左手で僕の右手を取って
自分の股間に誘導し、固くなった"自分"を掴ませた。

驚きと快感が、僕の理性を失わせた。。。

いじられて、"僕"も勃ってしまっていた。
頭の芯がぼーっとする。
身体が熱くて熱くて、もうどうにもならない。
無意識に、笑太君を愛撫し続けていた。


「あ。はぁ。。。」
笑太君の口が離され、甘い息が漏れた。
やっと唇が開放され、胸いっぱいに空気を吸い込む。
「ね?どうしたの?笑太君」
けれど言葉は溜息にも似た、喘ぎ声に紛れてしまう。
笑太君はそれには答えず、頭を下げていって"僕"を口に含んだ。
「あっ!やめっ。。!」
舌先が、"僕"の先に、触れる。
後頭部まで突き抜けるような快感。
両手首を押さえられていた僕は、思わず腰を突き上げた。
オカシクなっちゃいそうだよ!やめて!!
そう叫びたかったけれど、もう言葉にはならなかった。
お互いの息遣いだけが激しく、部屋の中に満ちていく。。。
「ね!笑太君、笑太君。。監視(み)られてるんだよ」
やっとの思いで口に出す。
笑太君の舌の動きが止まり、顔を上げて僕を見た。
汗で乱れた前髪の間から、切れ長な目が開いて青い瞳が見えた。
「いいよ」
薄い唇が半月型に大きく弧を描く。
その唇の、左下にある黒子が今日は妙に艶かしく見える。
「誰に監視(み)られてたっていい。ずっとお前に触れてみたいって思ってたから」
「。。。いつから?そんなの全然気付かなかったよ!」
その瞳が前髪に隠れてまた見えなくなった。答えは無い。
ただ、口元は優しく微笑んでいるように見えた。
その顔が伏せられ、既に膨張して弾けそうになっていた“僕”を
また口に含んだ。
「はあっ。。。はあっ。。。んんっ!」
快感に堪えきれず、思わず仰け反る。
「出ちゃう。。出ちゃうよ!口、離して。。。笑太君っお願いっ!」
苦しくて、恥ずかしくて、涙が出てきた。
もう自分ではどうにもならない。
だから止めて!とお願いするしかない。
だけど笑太君は止めようとはしない。
どうして?!どうして?。。。
心の中で何度も繰り返し尋ねる。そのうち何も考えられなくなって。
一瞬頭の中で光が、勢い良く砕けたガラスのように弾けて飛散した。。。


笑太君の口の端から一筋流れた白い雫の跡を、僕は人差し指で拭き取った。
その指を掴んで、笑太君は口に含むようにして舐めた。
「なんでこんなこと。。。?」
答えないまま笑太君は、僕の胸に顔を乗せてきて、
背中に回された手がしがみつくように僕の髪をクシャッと握った。
その頭を抱くようにして、優しく髪を撫でる。

傷付けられたのは僕なのに、
なんでそんなに傷付いたような表情(かお)をしているの?
それじゃ怒れない。責められない。

「ね、清寿」
鎖骨の辺りに熱い息がかかって、背筋がぞくぞくっとした。
「挿入(い)れていい?」
言い切る前に、笑太君は僕の中に侵入し始めていた。
まず指がゆっくりと。。。
「え!?待って、待ってっ!!」
焦って叫ぶ。
それ、許可取る質問になってないじゃない!
徐々に指が増やされ、僕の中を突き上げるように動く。
痛みが、脊髄を這い上がる。
「痛いっ!お願い、止めて。。。!笑太君。。。」
骨盤が軋むような苦痛に、顔が歪む。
抗議しても、懇願しても、笑太君は止めようとしてくれない。
その嗚咽を消し去るように唇が重ねられて、舌が舌をまさぐる。
涙が溢れてきて、 もう目を開けていられない。
こんなに苦しくて仕方ないのに、
こんなにも感じてしまっている自分が悔しくて堪らない。
「ごめん。。」
笑太君が唇を離し、吐息のような声で囁いた。
「でももう、俺にも止められない」
はぁ。。。
息を吐きながら笑太君は"自分"を僕の中に収めていった。
それが完全に入った時、痛みが快感に変わった。
笑太君は繋がったまま体位を変えて、今度は僕を上にした。
「動いて、清寿。痛くないようにゆっくりでいいから」
再び勃ってしまった"僕"に触れながら、笑太君は荒々しい息で、
優しくそう云った。
もう何も考えられなかった。。。
促されるままに、腰を動かす。
僕の動きに合わせて、笑太君が大きく呼吸(いき)を吸って、吐く。
筋肉質な胸についた僕の手に、笑太君の激しい呼吸と鼓動が伝わってくる。
「清寿。。。清寿。。。」
笑太君はうなされるように僕の名前を呼び続けていた。
それに気付いた時、なんとも云えない感覚が込み上げてきた。
好き?愛しい?違う。それとは別の。。。もっと別の感情。。。
痛みが遠のき、意識も遠のく。
苦しい。苦しい。だけど気持いい。。。
僕の腰に添えられた笑太君の手に力が入り、動きを早くする。
その手はそこから融け合ってしまいそうな程に熱かった。
イキそう。。。と僕が思うのと同時に、笑太君が唸るように叫んだ。
「イク。イクよっ!。。。清寿っ!」

笑太君の眉間に縦皺がぎゅっと寄ると同時に、僕達は果てた。


すっかり力が抜けてしまった僕の身体を、笑太君はしばらくの間抱きしめてくれていた。
「ごめん。。。ホントにごめん」
僕の肩に顔を埋めて、笑太君は独り言のように云った。
何か云ってあげなきゃ。。。と思ったけれど、僕は唇も、指さえも、
自分の意思で動かせなくてしまっていた。
でも、全ての感覚が現実から遠ざかっても、
抱き合った肌越しに伝わってくる笑太君の熱い体温だけは感じていた。
悲しげな、痛々しげな表情を浮かべたその顔をぼんやり見ながら、
僕は気を失うように眠りに落ちた。。。


「起きたか?」
「うん。。起きた」
目を覚ますと笑太君は僕の隣には居なくて、
水槽の横にスツールを引っ張ってきて座って煙草を喫っていた。
「怒ってる?」
無表情のまま、ぼそっと聞いてきた。
「。。。怒ってはいないかな。でも」
言葉を切った僕の顔を、笑太君はじっと見続けていた。
「なんでこんなことを。。。?」
ふぅ。
笑太君は煙草の煙をゆっくり吐いた。
「触れてみたかったんだ。本当のお前に」
「本当の僕?」
「そう。穏やかに笑っていつも俺をサポートしてくれている"表"のお前
じゃなくて、何かを諦めてしまっているような"本当"のお前に。。。」
心臓が、どくん!と飛び上がったが、冷静さを装った。
「なんでそんな事分かるの?」
「なんでって?一緒に居れば分かる。これだけ長く一緒に居れば。。。」
そうだ!笑太君はバツグンに勘がいいんだった。
なにせ総隊長やってるくらいだし。
笑太君はいつも優しくて、それに甘えすぎていたのかもしれない。。。
「ごめんね」
「なんでお前が謝る?」
「う〜んとね。。"なんとなく"?」
「それ。。。俺が前使った言い訳だろ?(笑)」
笑太君がバツの悪そうな表情をした。
それを見て、思わず声を上げて笑ってしまった。
「でもね」
そう言い出した僕を、笑太君の晴れた空みたいな色の瞳が凝視した。
「イヤじゃなかったよ。ありがとう笑太君」
「だ〜か〜ら〜!なんでそこでありがとうなんだよ?」
笑太君は苦笑し、しかししつこく聞こうとはしなかった。
僕がそれ以上説明する気は無い、というのが分かっているみたいに。
しばしの沈黙の間に、煙草のニオイがゆるゆると漂う。
「明日諜報課に行きづらいなぁ。。」
「分かってるならやらなきゃいいのに(笑)」
笑太君の呟きに、つい突っ込んでしまった。
今まで時々一緒に眠っていたのだってずっと監視(み)られていたのに今更。。。
とは、あえて口には出さずにおいたけど。
「もう寝よう?明日出番だよ」
そう声を掛ける。
もう1本だけ吸って寝るよ、と、笑太君は水槽の方を向いてしまった。
その横顔から目を逸らすように寝返りを打って、背中を向ける。

近付く、でもなく。遠去かる、でもなく。
好き、でもなく。愛してる、でもなく。
今までのままでいたい。。。というのはもうムリなのかな?

ベッドに入ってきた気配を背中越しに感じて、
僕はやっと眠りに就いた。


                   ― The end ―






P.S.
これがホントの“最初の話”。
御子柴の方が式部より孤独に弱そうな気がしたので
こんな感じになりました。
これ実は伊勢志摩を旅している間に降りてきた話で。。
しかもがっつりお伊勢参りをしている時に(笑
神々は一体私に何をさせたいんでしょ??


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