―Phantom Pain―


あぁっ!
苦しげな短い声を発して、式部は御子柴の中で果てた。
直後、脱力してしまった式部の身体を抱きかかえるようにしてベッドの
上に倒れ込み、御子柴は繋がりを解いた。
うっとりと夢見るように目を閉じた式部は、人形のように動かない。
その身体から御子柴は、お互いの欲望の跡を拭き取ってやる。
丁寧に。丁寧に。
まるでコワレモノを扱うように。

つ、と伸ばされた両腕が御子柴の頚に回され、ぐっと引き寄せられた。
それに抵抗することもなく、抱き寄せられるがままに御子柴は式部の
左胸に耳を当てる。
まだ早い鼓動が、胸郭を介して伝わってくる。
少し汗ばんで湿り気を帯びた肌はひんやりとしているが、体内には
まだ熱が籠もっているようだ。
「笑太君。。。僕、まだ生きてる?」
御子柴の頭の向こうで、うわ言のように式部が呟く。
「ああ。大丈夫。大丈夫だよ、清寿」
繰り返し。繰り返し。
まるで記憶に摺り込むように答えてやる。
ふっ。
瞳を開けないまま、式部は満足そうに口元だけで微笑み、
御子柴の首の拘束を解いた。
これは毎回行われること。
まるで儀式のように。
御子柴はいつかその意味を聞いてみたいと思っているのだけど、
何故か訊けないままでいた。
聞いてはいけない事のような気がして。。。

ぱたん。
崩れるようにベッドの上に落ちた両腕がそのまま動かなくなった。
眠ってしまったのだろうか?
御子柴は上から、その人形にように美しい造作の顔を覗きこむ。
そしていつものように、浅い寝息を聞いて安心する。
先刻まで桜色に染まっていた身体から急速に熱は失われ、
白く戻ってきた肌にはうっすらと青い血管が透けて見えていた。

今日俺を支配したのはお前なのに、
まるで蹂躙された者のように見えるのは何故だろう?
死ぬこと?それとも生き続けること?
どちらがお前の望みなのかも解らない、このもどかしさにイラつく。

溜息を一つ。
式部に毛布をかけてやり、御子柴はシャワーを浴びることにした。



「え?僕そんなことするの?」
起きてシャワーを浴びてきた式部は、驚いたように御子柴の顔を見た。
「う〜ん。覚えてないのか。。。」
瞳だけを上に向けて、式部はタオルで髪を拭く手を止めた。
「うん。。。覚えてない。いつも途中から記憶が無くて。。。」
式部は申し訳なさそうに語尾を濁した。
「ごめん。気になるよね」
「いや。別に」
御子柴は軽く笑って否定してみせた。
気になるけれど、自覚が無いならしょうがない。
いつものようにコーヒーを淹れる式部の手元を、ベッドに横たわったまま
見るともなしに見ていた御子柴は、式部が封じている心の"闇"の部分に
触れてしまったような気がして黙り込んだ。
「もしかしたら。。。」
沈黙を破ったのは式部の方だった。
「確認したいのかもしれない」
確認?
意図を図りかねるような表情(かお)で見返す御子柴に、式部は答える。
「してる時いつも苦しいから、終わった時に生きてるのを確認して安心したく
なるのかも」
「そいつは悪かったな」
赤面してヤケクソ気味に答える御子柴に、式部はふわっと笑みを返す。
「でも生きているのは実感出来るんだ。あの痛みのおかげで。。。」
「清寿。。。M?(苦笑)」
「笑太君こそMだって自覚ある〜?」
スゴい会話だね!と式部はウケながら、コーヒーそっちに持ってく?と聞きに
ベッドに近付いて来た。
「笑いすぎ!(怒)」
その片方の手首を掴んで引き寄せる。
式部は抵抗せず、ベッドの上の御子柴の横に倒れ込む。
うつ伏せになったまま笑い続ける式部の頭をグリグリと掻き回す御子柴に、
急に黙ってから改まって式部は云った。
「いつもありがとう、笑太君」
「。。。」
そのちょっと寂しげな微笑に、御子柴は掛ける言葉を失った。
出し抜けに、式部の身体を仰向けにして身体を重ねる。
「えぇっ?!笑太君!コラ!!今シャワー浴びたばかりなのに〜!」
耳元に熱い息がかかる。
「痛み以外の"生きている実感"をやるよ。。。」
首筋を探る唇の感触を感じながら、式部はゆっくり目を閉じた。
     

  ― The end ―






P.S.
式×御子のち御子×式です。
終わりから始まる話なので
そんなにハードじゃないかな、と(笑
2人共“表M本性S”だと思うんですけど。。
どうでしょう?


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