―Wicked Hearts―


滑らかな肌が紅潮して、淡い桜色に染まっていた。
胸部から腹部が大きく波打つ。
しかしその身体は、汗一つかいていない。
「笑太君。。。っ!」
語尾が跳ね上がり、吐息になって拡散する。
次第に激しくなる俺の動きに合わせて眉間の皺がきゅっと深くなり、
苦しげに閉じられた目尻から涙が頬を伝い落ちる。

目を開けて。
その瞳が見たい。
ちょっと攻めるような、潤んだ瞳が見たい。。。

荒々しい呼吸が、欲情をそそる。
仰け反った白い頚にはくっきりと、俺の欲望の印が付けられていた。
一旦身体を離す。
脱力したその頭を押さえ、顔を俺の下腹部に押し当てる。
軟らかい口腔が俺を捉え、湿り気のある音を発する。
はぁ。。。
思わず熱い息が漏れる。
適度に筋肉のついたしなやかな身体が俺の腕の間で揺れているのを、
陶然と見下ろす。
激情がピークに達する前に口から俺を引き抜き、
彼の身体の向きを変え、背後から細い腰を引き寄せる。
んんっ。。。
貫いた瞬間、清寿は声にならない声を発した。
はぁっ。。。あぁっ。。。
抑えた喘ぎ声が、俺の中の嗜虐的な部分を刺激する。

もっと乱れたお前が見たい。
もっともっと。。。

「あああっ!」
ベッドに押し当てられた両手の指が、折れる程に握り締められる。
「ダメ!ダメだよ笑太君っ!」
何が?もうここからは戻れない。
感情も思考も飛びそうになる。
更に激しくなった俺の動きを受け止めるように、大きく反った白い背中の
上でブルーブラックの長い髪がうねる。
キレイに並んだ脊椎骨の凹凸の横に付いた浅い傷の痕を、唇でなぞる。
びくんっ。
やっとしっとり汗ばんできた肌が跳ね上がる。

顔が見たい。
苦痛と歓喜が入り混じったような、その瞬間の表情(かお)が見たい。。。

その願いは果たされず、俺達は同時に達した。



行為の後、清寿はしばらく死んだように眠る。
寝返りも打たずに。
浅い呼吸(いき)が俺を不安にする。
そのまま停まってしまいそうで、俺はいつも眠ることが出来ない。
バスローブを羽織って、スツールを水槽の前に置き、そこで煙草を燻らせ
ながら眠り続ける清寿を見守る。
これも習慣になってしまった。
ふぅ。。。
吐き出された煙はゆるゆると上ってゆき、天井近くで見えなくなった。
こぽこぽ。
水槽の中でゆったりと泳ぐアロワナの、大きな鏡のような瞳がこちらを見ている
ような気がした。
水槽越しに視線を合わせる。
「今度水槽洗ってやるからな」
こつん!
顔の辺りのガラスを、人差し指の第2関節の背で軽く叩く。
いつも通りの無反応。
なんかお前、誰かさんに似てないか?瞳の色、緑っぽいし(笑)
思い付いたら可笑しくて、笑みが零れた。
「煙草、止めたんじゃなかったの?」
ベッドの方へ視線を遣る。
いつの間にか清寿は目覚めていて、毛布に包まったまま、ベッドに顔を半分
埋めるようにしてこちらを見ていた。
「うん。まぁね」
言い訳する気は無い。
片方の口の端を少しあげて、自虐的な笑みを返す。
自分の家では吸えない事情があるから吸わないようにしていただけだ。
「僕のせいだよね。ごめん」
深い紫色の瞳が悲しげに揺れた。
それに答える気も無い。
軽く聞き流し、ふ〜っと煙を吐き出す。
「眠れたか?」
その質問に、清寿は微笑みながら頷いた。
ありがとう笑太君。。。
声には出さずに唇だけで呟く清寿から視線を逸らし、上を向く。
紫煙の消え行く先を追うように。
本当は照れくさくて笑ってしまいそうなのを誤魔化す為に。

「ね、笑太君」
こちらを向くように寝返りをうち、瞳を閉じて、
すぅ。
と、一息吸い込んでから、清寿はこう訊いてきた。
「もし僕が死んだら、笑太君は不幸になる?」
「はぁ?!」
思わず口に咥えていた煙草を取り落としそうになって慌てる。
そのせいで答えるのが遅れてしまった。
遅れついでにもう一服、深く煙を吸い込んで、ゆっくり吐いた。
「もしお前が誰かに殺されたら、俺と羽沙希で必ず処刑してやる」
「殺されたらって(笑)死んだら、って云ったのに」
「却下。俺より先に死ぬのは特刑総隊長として許可しない」
にっ。
真面目な顔で云った後、笑ってみせた。
「え〜?!それ横暴〜!職権乱用じゃない?」
内容は非難めいているが攻めてはいない、いつもの口調。
髪の毛の隙間から見える式部の瞳は、満足そうに微笑んでいた。

誰に監視(み)られていても構わない。
それがお前の"生"への執着になれるのなら何でもする。
それは俺自身の正気を保つ術でもあるのだから。。。



             − The end −






P.S.
初めて書いたやおい作品。。
私が書くとBLじゃなくて“愛ルケ”に
なっちゃうのは何故〜??(泣
BGMは是非『哀歌(エレジー)』by平井堅で!


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